2017-01-01から1年間の記事一覧

ワンダーフォーゲル

2つの山を結ぶ列車はトコトコと山あいの道を進んでいく。隣の席では目の青い愛くるしい子どもたちが戯れ合っていて、それを母親が優しくたしなめながら、こちらに向かって「すみませんね」というように目配せしている。僕としてはそれまでの曇天が晴れ渡るよ…

それでも旅するバルセロナ

10年ほど前に、ウディ•アレン監督の『それでも恋するバルセロナ』という映画があった。いかにもウディ•アレン印といった感じの、男女が惚れた惚れられた、フッたフラレたといって、恋愛が繰り広げられる作品だ。ストーリーの濃度もさることながら、目玉はな…

砂漠とラマダン、旧市街とミントティーのビート

モロッコに行こうと思い立ったその理由は、ほとんど無いと言って等しい。しかし理由が無いのが理由、と言えば都合がよすぎるだろうか。モロッコという国に関しては何も知らなかった。位置する場所くらいは知っていたが、首都の名前も怪しかった。とにかくど…

登山れ、女神の祝福の階段を

「何故山に登るのか?」という問いに、「そこに山があるから。」と答えたのはジョージ•マロリーという登山家だ。本当はエベレストのことを指しているそうだが、日本ではこのような問答として知られている。この話は有名で様々なところで散見されるが、しかし…

夜行列車と乞食たち

率直に言うと、僕はインドに負けた。かの昔、藤原新也は『印度放浪』でこう記している。 “青年は何かに負けているようであった。多分青年は太陽に負けていた。そして、青年は大地に負けていた。青年は人に負け、熱に負けていた。青年は牛に負け、羊に負け、…

Long Transit In Southern Lights

車窓から差し込む陽の光で目が覚めた。体を起こし薄いカーテンを開くと、その向こうにはどこまでも続く田園風景が見え、眼下を掠めるヤシの木のような熱帯樹林が南の地に来たことを知らせていた。まだ始まったばかりの朝を纏った寝台列車は、そしてさらに南…

放蕩息子の漂流

旅に出ようと思ったその一点を指摘するのは難しいが、動機になったものが何かははっきりと分かる。高校の頃、父の書斎から抜き出した『深夜特急』だ。香港からロンドンまでのその広大な旅は、世界の美しさと醜さ、人間の逞しさと弱さを映し出していた。片田…